電脳文芸日記 6
昨年12月、某出版社から300枚程度の書き下ろしを依頼されました。書き溜まっている作品はどれも600枚を超える長編なので、本として出しづらい。売りやすい値段を付けるためにも、文庫用に300枚から400枚程度のものを書き下ろしてくれということでした。
その出版社は毎月15冊くらいずつ文庫を出していて、本当にこんなペースで大丈夫なのだろうかと心配になるほどでした。「書き上げたのはいいけれど、事情が変わって出せないなんてことにはならないでしょうね?」と念を押しました。編集者は「なぜですか? 絶対それはありません」と太鼓判を押したのですが、それでも心配だったので、原稿締め切りを1月末に設定し、予定通り書き上げて渡しました。
ところが、渡して数日後、急に連絡が途絶えました。確認してもなかなか返事がなかったのですが、問いつめたところ「事情が変わって、新刊点数を月15点から6点に減らすことになった。いただいた原稿は事実上出せない」という返事。
作品の中身がどうのではなく、純粋に、出版点数を半分以下に減らす上で、今までつきあいのなかった私は真っ先に数減らしの駒に選ばれたということです。
依頼原稿をこのような形で放り出された経験は初めてではありません。文芸誌への掲載という依頼で書いたものの、渡した直後に依頼してきた編集長が異動になったり、文芸誌そのものが突然廃刊になったりして、うやむやにされたことは過去に何度かあります。単行本書き下ろしでも、原稿を渡した後、まったく連絡が途絶えたり、約束が一方的に破棄されたことがあります。そのたびに、担当者が責任を取って会社を辞めたりしていますが、作家側には関係のないことで、なんの救済にもなりません。(今回も複数の編集者が解雇されたそうですが、要するに単純なリストラでしょう)
これでまたお蔵入りの原稿が一つ増えました。『呪禁(じゅごん)』830枚、『黒い林檎』616枚、そして今回の『鬼族(きぞく)』360枚。どの作品も「娯楽」小説に属するもので、肩肘張った作品ではありません。それだけに、これらが出版できない状況というのは、精神的にも重くのしかかってきます。
さて、どうすればいいのか……?
文藝ネットを立ち上げたのも、作家側が行動を起こす基盤を少しでも作りたいという思いからでした。デジタル配信の試みを、できる範囲でやってきましたが、ここでさらにもうひとつ、別の実験をしてみようと思います。
極少部数出版。……まあ、平たく言えば自費出版ですが、これは、出版物を自費で作って売るということを最終目的にしているのではなく、商業出版の前段階としてのプロモーション・バージョンと考えています。
出版不況の現在、一旦宙に浮いた作品は、なかなか新たな版元を得るチャンスに恵まれません。契約違反でもなんでも、はっきりと「出せなくなったから他に持ち込んでくれ」と言われればまだマシなのですが、たいていは、出版者側がメンツを気にするせいなのか、事実上出版できなくなってからも、ずるずるとひも付き状態を続けるのですね。こうなると、作品を引き上げて他に持ち込むこともできません。今回の『鬼族』は、それだけは避けたかったので、はっきりと問いただし、「事実上出せない」という回答を引き出したわけですが、今までのケースでは、こうした答えさえ返ってこないでうやむやにされることのほうが多かったのです。
これは私だけではなく、多くの作家、執筆者が経験していることです。出版契約書を交わしていても、一方的に反古にされ、なんの補償も行わない。……残念ながら、これは出版界の慣例です。
そこで、この作品は「版元募集中」であるという意思表示のために、プレリリース版を出版するという方法を考えました。最初に出版を決めてくれた版元に作品の出版権を引き渡します。
複数の編集者やメディア関係者、文芸評論家などに読んでもらうためにも、本という形にすることが必要だと考えました。というのは、未だに多くの編集者や評論家は、デジタルファイルを扱う技術を持っていないからです。『黒い林檎』は、すでに文藝ネットのWebサイト上で全面公開し、誰もが自由に読むことができますが、インターネットに接続できない、あるいは接続環境を持っていても、面倒くさがったり、インターネットを毛嫌いしている編集者や評論家がたくさんいます。そうしたタイプの関係者に読んでもらうために、なじみやすい「本」という形にすることが求められているわけです。
(これは過渡的なものだと思います。将来的には、ディスプレイで文芸作品を読むことに多くの人たちが違和感を持たなくなるでしょうから。)
もうひとつは、商業出版を待っていられないというありがたい読者のかたがたに、いち早く「本」をお届けするという目的です。ファイルという形のないものではなく、本という「もの」として作品を所有することを望むかたがたのために、一種のプレミアムバージョンということで提供していこうというわけです。
また、プレリリース版の購入者は、その作品にとってのスポンサーであり、サポーターです。本を購入することによって、作家の執筆活動を支えることになります。もちろん儲けなどまったくありませんが、コストを回収できるかどうかは、こうした活動を続けていけるかどうかの分かれ目です。
第一回の配本は、『黒い林檎』です。A5版並製本192ページで、2000円を予定しています。制作部数は100部のみ。通し番号を振り、購入者には若い番号から、メディア関係者への謹呈は100番から逆順に送付していきます。最終的には50部+50部あたりで終了してくれればいいなと思っています。
『黒い林檎』はすでに印刷所への入稿が終わりました。3月中には配本開始できるでしょう。第二回配本の『鬼族』もすぐ後に続く予定です。
よろしくご支援のほど、お願いいたします。
(01/02/24 鐸木能光・記)
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